対応のある 2 変数の組について,代表値に差があるか検定する。
ウィルコクソンの符号付順位和検定では,2 変数のとる値の差が定義でき,かつ,差の順位付けができなければならない(この条件が満たされないときには符号検定を用いること)。
例題:
「10 人の被検者について,ある測定値を得た。同じ被検者に対して,1 年後にもう一度測定した。その結果を表 1 に示す。1 年間で母代表値に差があったかどうか検定しなさい。」
被験者 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
$X_{i}$ | 269 | 230 | 365 | 282 | 295 | 212 | 346 | 207 | 308 | 257 |
$Y_{i}$ | 273 | 213 | 383 | 282 | 297 | 213 | 351 | 208 | 294 | 238 |
$X_{i}-Y_{i}$ | $-$4 | 17 | $-$18 | 0 | $-$2 | $-$1 | $-$5 | $-$1 | 14 | 19 |
順位 | 4 | 7 | 8 | 3 | 1.5 | 5 | 1.5 | 6 | 9 |
検定手順:
例題では,$n = 10$,$d_{1} = -4$,$d_{2} = 17$,$\dots$,$d_{10} = 19$ である(表 1 の 4 行目)。
例題では,表 1 の 5 行目。
例題では,
$X_{i} > Y_{i}$ の組に付けられた順位の和は $7 + 6 + 9 = 22$
$X_{i} < Y_{i}$ の組に付けられた順位の和は $4 + 8 + 3 + 1.5 + 5 + 1.5 = 23$
となるので,$T = 22$ である。
例題では,$N = 9$ であり,有意水準 $5\%$ で検定を行うとすると,棄却限界値は $5$ である(両側検定の場合には,有意水準 $5\%$ で検定をするならば,統計数値表で $\alpha=0.025$ の列を見ること)。
$N \leqq 50$ ならば,ウィルコクソンの符号付順位和検定統計量の分布を参照することにより,正確な有意確率を求めることができる。
例題では,「検定統計量 $>$ 棄却限界値」 なので,帰無仮説は棄却できない。すなわち「母代表値に差があるとはいえない」。
\[ Z_0 = \frac{\displaystyle \left |T-\frac{N\ (N+1)}{4} \right |}{\sqrt{\displaystyle \frac{N\ (N+1)\ (2N+1)}{24}}} \] 試みに,例題では,$Z_{0} =0.05923$ である。
例題では,$\Pr\{| Z | \geqq 1.96\}= 0.05$ なので,$P = \Pr\{| Z | \geqq 0.05923\}> 0.05$ である(正確な有意確率:$P = 0.95277$)。
例題では,有意水準 $5\%$ で検定を行うとすれば($\alpha = 0.05$),$P > \alpha$ であるから,帰無仮説は棄却できない。すなわち,「代表値に差があるとはいえない」。
演習問題:
応用問題: