乱塊法は,対応のあるデータにおける平均値の差の検定である。
乱塊法は農事研究における圃場試験での伝統的な呼び方であり,表 1 のようなデータを対象としている。
例題:
「表 1 のようなデータがある。4 種の肥料間で収量に差があるか,また,3 種の品種ごとに差があるか検定しなさい。」
肥料 | ||||
---|---|---|---|---|
品種 | $B_{1}$ | $B_{2}$ | $B_{3}$ | $B_{4}$ |
$A_{1}$ | 9 | 17 | 12 | 16 |
$A_{2}$ | 1 | 21 | 16 | 11 |
$A_{3}$ | 7 | 19 | 6 | 9 |
被験者 | 処理1 | 処理2 | $\dots$ | 処理 $c$ |
---|---|---|---|---|
1 | $X_{11}$ | $X_{12}$ | $\dots$ | $X_{1c}$ |
2 | $X_{21}$ | $X_{22}$ | $\dots$ | $X_{2c}$ |
: | : | : | : | : |
$r$ | $X_{r1}$ | $X_{r2}$ | $\dots$ | $X_{rc}$ |
\[ X_{ij} = \mu + (\mu_{\cdot j}-\mu) + (\mu_{i\cdot}-\mu) + \epsilon_{ij} \] または,
\[ (X_{ij}-\mu) = (\mu_{\cdot j}-\mu) + (\mu_{i\cdot}-\mu) + \epsilon_{ij} \]
\[ (X_{ij}-\bar{X}_{\cdot \cdot}) = (\bar{X}_{\cdot j}-\bar{X}_{\cdot \cdot}) + (\bar{X}_{i\cdot}-\bar{X}_{\cdot \cdot}) + (X_{ij}-\bar{X}_{\cdot j}-\bar{X}_{i \cdot}+\bar{X}_{\cdot \cdot}) \]
\[ \sum_{i=1}^r \sum_{j=1}^c (X_{ij}-\bar{X}_{\cdot \cdot})^2 = r \sum_{j=1}^c (\bar{X}_{\cdot j}-\bar{X}_{\cdot \cdot})^2 + c \sum_{i=1}^r (\bar{X}_{i \cdot}-\bar{X}_{\cdot \cdot})^2 + \sum_{i=1}^r \sum_{j=1}^c (X_{ij} - \bar{X}_{\cdot j} - \bar{X}_{i \cdot} + \bar{X}_{\cdot \cdot})^2 \] この式は,測定値の全変動 $SS_{t}$ が,処理の差 $SS_{c}$ と個体の差 $SS_{r}$ および残差 $SS_{e}$ に分解されることを表している。
\[ SS_t = SS_c+SS_r+SS_e \]
変動要因 | 平方和 | 自由度 | 平均平方 | $F$ 値 |
---|---|---|---|---|
処理の差 | $SS_{c}$ | $c - 1$ | $MS_{c}$ | $\displaystyle \frac{MS_{c}}{MS_{e}}$ |
個体の差 | $SS_{r}$ | $r - 1$ | $MS_{r}$ | $\displaystyle \frac{MS_{r}}{MS_{e}}$ |
残差(誤差) | $SS_{e}$ | $( c - 1)\ ( r - 1 )$ | $MS_{e}$ | |
全体 | $SS_{t}$ | $c\ r - 1$ | $MS_{t}$ |
肥料 | |||||
---|---|---|---|---|---|
品種 | $B_{1}$ | $B_{2}$ | $B_{3}$ | $B_{4}$ | 平均値 |
$A_{1}$ | 9 | 17 | 12 | 16 | 13.500 |
$A_{2}$ | 1 | 21 | 16 | 11 | 12.250 |
$A_{3}$ | 7 | 19 | 6 | 9 | 10.250 |
平均値 | 5.667 | 19.000 | 11.333 | 12.000 | 12.000 |
9.000 | 25.000 | 0.000 | 16.000 | 2.250 |
121.000 | 81.000 | 16.000 | 1.000 | 0.063 |
25.000 | 49.000 | 36.000 | 9.000 | 3.063 |
40.111 | 49.000 | 0.444 | 0.000 |
要因 | 平方和 | 自由度 | 平均平方 | $F$ 値 | 有意確率 |
---|---|---|---|---|---|
肥料の差 | 268.667 | 3 | 89.556 | 5.492 | 0.037 |
品種の差 | 21.500 | 2 | 10.750 | 0.659 | 0.551 |
残差 | 97.833 | 6 | 16.306 | ||
全体 | 388.000 | 11 | 35.273 |
例題では,肥料の差についての検定統計量は $F_0 = 5.492$ で,自由度 $(3, 6)$ の $F$ 分布に従う。
例題では,肥料の差についての検定統計量は $F_0 = 0.659$ で,自由度 $(2, 6)$ の $F$ 分布に従う。
例題では,肥料の差については,自由度が $(3, 6)$ の $F$ 分布において,$\Pr\{F \geqq 4.76\}= 0.05$ であるから,$P = \Pr\{F \geqq 5.492\}\lt 0.05$ である(正確な有意確率:$P = 0.037$)。
品種の差については,自由度が $(2, 6)$ の $F$ 分布において,$\Pr\{F \geqq 5.14\}= 0.05$ であるから,$P = \Pr\{F \geqq 0.659\}\gt 0.05$ である(正確な有意確率:$P = 0.551$)。
例題では,有意水準 $5\%$ で検定を行うとすれば($\alpha = 0.05$),肥料の差においては $P \lt \alpha$ であるから,帰無仮説を棄却する。すなわち,「肥料の差はある」。品種の差においては $P \gt \alpha$ であるから,帰無仮説は棄却できない。すなわち,「品種の差があるとはいえない」。
演習問題:
「8 名のボランティアを被検者として,ある薬剤を投与しない場合(0mg),10,20,40,80mg 投与する場合の 5 通りの処置を行い,効果を測定した結果は表 5 のようになった。薬剤の効果があるかどうかを $5\%$ の有意水準で検定しなさい。」
投与量 | |||||
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被検者 | 0mg | 10mg | 20mg | 40mg | 80mg |
1 | 5 | 60 | 35 | 62 | 76 |
2 | 24 | 44 | 74 | 63 | 76 |
3 | 56 | 57 | 70 | 74 | 79 |
4 | 44 | 51 | 55 | 23 | 84 |
5 | 8 | 68 | 50 | 24 | 64 |
6 | 32 | 66 | 45 | 63 | 46 |
7 | 25 | 38 | 70 | 58 | 77 |
8 | 48 | 24 | 40 | 80 | 72 |
問題1 帰無仮説はどれか。a,b のいずれかを解答欄に記入し,送信ボタンをクリックしなさい。
問題2 検定統計量$F_0$ を求めなさい。答えは小数点以下 4 桁目で四捨五入した値を解答欄に記入し,送信ボタンをクリックしなさい。
問題3 有意確率は $0.05$ より大きいか小さいか。a,b のいずれかを解答欄に記入し,送信ボタンをクリックしなさい。
問題4 有意水準 $5\%$ で検定を行うとき,帰無仮説は棄却できるかできないか。a,b のいずれかを解答欄に記入し,送信ボタンをクリックしなさい。
問題5 最終的な結論はどうなるか。a,b のいずれかを解答欄に記入し,送信ボタンをクリックしなさい。
問題6 被験者間に差はあるか。a,b のいずれかを解答欄に記入し,送信ボタンをクリックしなさい。
応用問題: