いくつかの注意点 Last modified: May 16, 2002
- 多くの教科書では「フィッシャーの直接確率法」とされているが,検定手続から考えても,“exact test” の
訳としては不適当である。本書ではあえて,「フィッシャーの正確確率検定」と呼ぶ。
- 一般的に,フィッシャーの正確確率検定は独立性の検定( $\chi^2$ 検定)との関連で論じられるが,比率の差の検定についても同様に適用できる。
- $2 \times 2$ 分割表は,その出処が 2 通りある。
- まえもって 2 群を設定し,各群についてデータを集める場合(疫学調査での後向き調査・前向き調査)。
- 調査対象数だけを決めてデータを集め,しかる後に 2 要因で分類して分割表を作る場合(断面調査)。
前者の場合は「比率の差の検定」が使われ,後者の場合は「独立性の検定($\chi^2$ 検定)」が使われる。しかし,$2 \times 2$ 分割表だけを見た場合にデータの出処の違いはわからない。なのにどうして 2 通りの検定があるのか。実は,両者の検定は全く同じ検定結果を与える等価な検定である。
- 本検定は,「期待値が小さい」場合に推奨される。教科書によっては「4 つのうちのどれかの桝目の観察値が5 以下のときに」と書かれているが,「観察値が」ではなく正しくは「期待値が」である。
Cochran は,「$2 \times 2$ 分割表の場合には,(1)全ケース数が 20 以下のとき,(2)全ケース数が 20 〜 40 のときで期待値のうち最も小さいものが 5 以下のとき,フィッシャーの正確確率検定を使う」ことを勧めている。ちなみに,彼はさらに,「全ケース数が 40 以上の場合には連続性の補正をした $\chi^2$ 検定を行う」と書いているが,ケース数が大きい場合にもフィッシャーの正確確率検定を使ってもかまわない(Cochran, W. G.: Some methods for strengthening the common $\chi^2$ tests. Biometrics, 10, 417-451, 1954.)。
- 多くの教科書には片側検定の仕方が書いてある。フィッシャーの正確確率検定は本来片側検定として提案されたものである。これらの教科書に載っている他の検定の多くは両側検定なので,(フィッシャーの正確確率検定は片側検定であると明記していないことが多いせいもあるが)両側検定だと思い込んでいる人も少なくない。両側検定について記述がある場合にも,片側検定の確率を 2 倍すればよいとされている場合がある。しかし,周辺度数が $e \ne f$(または $g \ne h$)の場合には分布が対称でないので,この方法は誤っている。
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