フィッシャーの検定 Last modified: May 15, 2002
有意確率(P値)の決定にはいろいろ面倒なことが多いのですが,とくに Fisher's exact probability test において,この問題点が噴出しているようにみえます。
- 栗谷典量:「臨床比較試験の問題点 二重盲検法の実際と盲点」医薬ジャーナル社,1977.
p234-235 に,「日本ではじめてフィッシャーの直接確率計算法を紹介した『日新医学』の記載部分」という項がある。原文は見ていないが,たぶんここは原文に忠実に引用していると思われ,「フィッシャーの直接確率計算法」として紹介されたのであろう。
栗谷の本は,フィッシャーの直接確率計算法についての(日本における)誤解について詳しく述べている。
- 増山元三郎:「日新医学」,第32年(ママ),4,5,7号,1943.
「フィッシャーの直接確率計算法」
- 印東太郎:「確率および統計」コロナ社,1973.p292-293
「フィッシャーの直接計算法」
片側検定と両側検定(カイ二乗検定)を混同している。
- J.L.フライス 佐久間昭訳:「計数データの統計学−医学・疫学を中心に−」,東京大学出版会,1975.
「フィッシャーの直接法」,「フィッシャーの直接検定法」という言葉を出しているが,具体的記述はない。
片側検定と両側検定の関係についても述べていない(不十分なので読者に誤解を与えかねない)。
- 三宅一郎,山本嘉一郎:「SPSS統計パッケージ I 基礎編」東洋経済新報社,1976.p179
用語として「フィッシャー法」を使っている。
なお,この当時の SPSS の出力は,出てきた有意確率が片側検定のものであることを明示していなかった。そのため,ユーザの中には解釈を誤るものが多かった。
- B.S.エベリット 山内光哉:「質的データの解析 カイ二乗検定とその展開」新曜社,1980.p15-20
「フィッシャーの直接検定法」。
標本サイズが等しい(統計量の分布が対称な)ときには2倍すればよいと書いてある。そうでないときどうするかは書いてない。
- S.ジーゲル 藤本煕監訳:「ノンパラメトリック統計学」マグロウヒル ブック 株式会社,1983.p101-109
「Fisher の直接確率検定」。
両側検定の有意確率は片側検定の有意確率の2倍であるとする誤りを犯している。
- 高木廣文:「ナースのための統計学 データのとり方・生かし方」医学書院,1984.p155-161
「フィッシャーの直接確率」。
この検定が片側であることを注意しているが,妥協してしまっている。「計算が煩雑なので...通常は2倍すればよいようである」などといっては困る。
ちなみに,高木廣文氏は HALBAU のメンテを一手にやっている。
- 淡中忠郎,石川栄助:「実務家のための新統計学」槙書店,1985.p180-184
「フィッシャーの直接確率計算法」という訳語をとっている。
述べられている手続きは片側検定であるのに,片側検定であることを明記していない。
K×L分割表への拡張についてふれてあるが,棄却域の設定についての記載は不十分だ。
- 豊川裕之,柳井晴夫:「医学・保険学の例題による統計学」現代数学社,1986.p158-160.
「フィッシャーの直接確率により棄却域を求める」という言い方をしている。
実は,この部分は私の担当でしたが,当時は「フィッシャーの直接確率法」というのが一般的に使われていたので,私の意見(フィッシャーの正確確率検定)は却下されたような記憶がある。
両側検定についても記載してある。
- 岩原信九郎:「新しい教育・心理統計 ノンパラメトリック法」日本文化科学社,1979.p23-26
「直接確率計算法」,または,「直接法」という用語を使用している。
p55 では,K×L分割表についての検定の項で,「直接(正確法)」という言葉も使っている。
両側検定についてしっかり書いている。
- 辻達彦:「医学・歯学・パラメジカル 統計方法入門」金原出版株式会社,1981.p125-126
「直接確率計算法」としている。
述べられている手続きは片側検定であるのに,片側検定であることを明記していない。
- バチャタリヤ,ジョンソン 蓑谷千凰彦訳:「初等統計学 2」東京図書株式会社,1987.p181-184
探したものの中では珍しい用語例,「フィッシャー・アーウィン厳密検定」を使っている。
ちなみに,この検定は Fisher が一人で考案したと思っている人が多いが,実際は似たようなことを考えたものは他にもいるということ。
今回は見つけられなかったが,「フィッシャー・アーウィン検定」という呼び方はある。
両側検定のやり方についてもちゃんと書いてある。
- T.D.V. Swinscow 西村昂三監訳,大島邦夫訳:「医学・薬学・生物学のための統計処理」,共立出版株式会社,1987.p79-83
「直接確率計算法」を使っている。
両側検定の有意確率は片側検定の有意確率の2倍であるとする誤りを犯している。
- 吉村功編著:「毒性・薬効データの統計解析−事例研究によるアプローチ−」,サイエンティスト社,1987.p76-78,193-194
「フィッシャーの確率計算法」
片側検定であることを明記してある。両側検定のやり方もちゃんと書いてある。
- ユックムス株式会社;「Yukms統計ハンドブック I −統計解析編−」サイエンティスト社,1988.p102-104
「Fisher の直接確率法」。
対立仮説の設定が両側検定なのに,計算手法の説明と計算プログラムが片側検定用である。両側検定と片側検定の関係については一切触れていない。
前出の吉村功氏の本を受けて書かれているのだと思うが?
- 肥田野直,瀬谷正敏ら:「心理教育 統計学」培風館,1988.p75
「直接確率による方法」と記述している。
述べられている手続きは片側検定であるのに,片側検定であることを明記していない。
- 仮谷太一:「医歯系・生物系のベーシック統計学」共立出版株式会社,1988.p174-175
「Fisher の直接確率法」。
両側検定についても記載がある。
- Paul E. Leaverton 麻生芳郎訳:「プログラム学習による医科統計学」メディカル・サイエンス・インターナショナル,1988.p51
「フィッシャー直接確率」という項目はあるが,具体的な記述はない(他書を参照せよとなっている)。
- 新田裕史,佐藤俊哉:「パソコン BASIC 生物統計学入門」現代数学社,1989.p69-70
この方法で得られる有意確率を「フィッシャーの正確な確率」と呼んでいる。検定法としては名前を挙げていない。
両側検定のやり方についてもちゃんと書いてある。
記載のない教科書(2×2分割表の独立性の検定は取り上げているが Fisher's exact test を取り上げていないということ)
- スネデッカー,コクラン 畑村又好,奥野忠一,津村善郎訳:「統計的方法 原書第6版」岩波書店,1972.
- R.C.キャンベル 石居進:「生物系のための統計学入門」培風館,1973.
- 林周二:「統計学講義 第2版」,丸善株式会社,1973.
- 大山正,武藤真介,柳井晴夫:「行動科学のための統計学」朝倉書店,1980.
- 岡本雅典,鈴木義一郎,杉山高一:「基本統計学」実教出版株式会社,1980.
- P.G.ホーエル 浅井晃,村上正康訳:「入門数理統計学」培風館,1983.
- 脇本和昌,垂水共之,田中豊:「パソコン統計解析ハンドブック I 基礎統計編」共立出版株式会社,1984.
- B.W. Brown, M.Hollander 医学統計研究会訳:「医学統計解析入門」MPC,1984.
- I.ガットマン,S.S.ウィルクス 石井恵一他訳:「工学系のための統計概論」培風館,1987.
- 森田優三:「新統計概論」日本評論社,1988.
- 田代嘉宏,脇本和昌,大崎紘一:「確率と統計要論」森北出版,1988.
- 西平重善:「統計調査法」培風館,1991.
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