$k \times 2$ 分割表で全体としての比率の差がないときは,多重比較は行わない。
例題:
「表 1 のようなデータにおいて,5 群の陽性率の差を多重比較により検討しなさい。有意水準 $5\%$ とする。」
群 | 陽性 | 陰性 | 合計 | 陽性率 |
---|---|---|---|---|
第 1 群 | 2 | 28 | 30 | 0.067 |
第 2 群 | 4 | 31 | 35 | 0.114 |
第 3 群 | 14 | 33 | 47 | 0.298 |
第 4 群 | 13 | 8 | 21 | 0.619 |
第 5 群 | 39 | 6 | 45 | 0.867 |
検定手順:
例題では,$\chi^2$ 検定統計量が $72.5872$(自由度 $= 4$)となる。有意確率は $0.001$ 未満であるから,全体として比率の差があるといえる。したがって,対比較によって,どの群間で差があるかを検討する。
群が $k$ 個あった場合,全ての 2 群の比率の差を検定するためには ${}_{k}C_{2}$ 回の検定を行わなければならない。検定結果全体としての有意水準を $\alpha$ とするためには,個々の検定において有意水準を $\displaystyle \frac{\alpha} {{}_{k}C_{2}}$ まで下げておけばよい。しかし,もし比率の最大値と最小値に有意な差が認められたときには,次の段階で $k - 1$ 個の比率の差を検定するときには,有意水準をもう少し大きくしてもよいであろう。
このように考えると,個々の検定に使用する有意水準として,以下の式で表される名義的有意水準を使用すればよい。 \[ \alpha' = \frac{2\ \alpha} {k\ (m-1)} \]
例題では,第 $1$ 群の比率 $P_{1} = 0.067$ と 第 $5$ 群の比率 $P_{5} = 0.867$ を比較する。
$P_{5} \geqq P_{p} \geqq P_{1}$ を満たすのは $1$ 〜 $5$ 群 の全てであるから,$\sum r = 72$,$\sum n = 178$ より,平均比率は $p = 72\ /\ 178 = 0.4044944$ である。これにより,$SE = \sqrt{0.4044944\cdot0.5955056\cdot(1/45+1/30)} = 0.1156812$ となる。
名義的有意水準は $\alpha' = 2\cdot0.05\ /\ ( 5\cdot4 ) = 0.005$ であるから,$Z_{\alpha'/ 2} = 2.807034$。$RD = 0.1156812\cdot2.807034 = 0.3247211$ となる。
第 $1$ 群と第 $5$ 群の比率の差 $= 0.8 \gt RD = 0.3247211$ なので「第 $1$ 群と第 $5$ 群の比率には差がある」と結論する。
例題では,第 $2$ 群と第 $5$ 群,第 $1$ 群と第 $4$ 群の比較を行う。名義的有意水準は $\alpha' = 2\cdot0.05\ /\ ( 5\cdot3 ) = 0.006666667$ であるから,$Z_{\alpha'\,/\,2} = 2.713052$。
まず,第 $2$ 群と第 $5$ 群の比較を行う。$P_{5} \geqq P_{p} \geqq P_{2}$ を満たすのは $2$ 〜 $5$ 群 であるから,$\sum r = 70$,$\sum n = 148$ より,平均比率は $p = 70\ /\ 148 = 0.4729729$ である。$SE = \sqrt{ 0.4729729\cdot0.5270271\cdot(1/45+1/35)} = 0.1125225$ となる。$RD = 0.1125225\cdot2.713052 = 0.3052793$ となる。
第 $2$ 群と第 $5$ 群の比率の差 $= 0.7523810 \gt RD = 0.3052793$ なので,「第 $2$ 群と第 $5$ 群の比率には差がある」と結論する。
次に,第 $1$ 群と第 $4$ 群では,同じようにして,平均比率 $= 0.2481203$, $SD = 0.1228910$, $RD = 0.3334097$ を計算する。
第 $1$ 群と第 $4$ 群の比率の差 $= 0.5523810 \gt RD = 0.3334097$ なので,「第 $1$ 群と第 $4$ 群の比率には差がある」と結論する。
以上のようにして得られた全ての結論,すなわち「群 $x$ と群 $y$,群 $u$ と群 $v \dots$ に比率の差が認められた。その他の比率の組合せには有意差は認められなかった」は,全体としての有意水準が $\alpha$ になる。
例題では,以下のようにまとめることができる。以下に示される組合せ以外の群間には比率の差はない。
比較する群 | 名義的有意水準 | 比率の差 | RD | 判定 |
---|---|---|---|---|
第 5 群 vs. 第 1 群 | 0.005 | 0.8000000 | 0.3247211 | 有意な差 |
第 5 群 vs. 第 2 群 | 0.00667 | 0.7523810 | 0.3052793 | 有意な差 |
第 4 群 vs. 第 1 群 | 0.00667 | 0.5523810 | 0.3334097 | 有意な差 |
第 5 群 vs. 第 3 群 | 0.010 | 0.5687943 | 0.2647880 | 有意な差 |
第 4 群 vs. 第 2 群 | 0.010 | 0.5047619 | 0.3261199 | 有意な差 |
第 3 群 vs. 第 1 群 | 0.010 | 0.2312057 | 0.2305387 | 有意な差 |
第 4 群 vs. 第 3 群 | 0.020 | 0.3211753 | 0.2987689 | 有意な差 |
演習問題:
応用問題: