複数個の相関係数の同等性の検定と母相関係数の点推定
Last modified: Feb 05, 2004
例題:
「表 1 に示す 5 個の標本相関係数について同等性の検定を行い,もし同等とみなせるならば母相関係数の点推定値を求めなさい。」
表 1.5 個の相関係数
| 標本の大きさ | 標本相関係数 |
| 10 | 0.658 |
| 16 | 0.285 |
| 8 | 0.569 |
| 29 | 0.427 |
| 36 | 0.374 |
母相関係数の同等性の検定は以下のように行う。
- 前提
- 帰無仮説 $H_0$:「母相関係数は全て等しい $\rho_{1}=\rho_{2}=\dots=\rho_{k}=\rho$」
- 対立仮説 $H_1$:「母相関係数は異なる(帰無仮説の等号が少なくとも一つは成り立たない)」。
- 有意水準 $\alpha$ で両側検定を行う(二つの相関係数の差の検定の場合には片側検定も可能)。
- 第 $i$ 標本のケース数および標本相関係数 を $n_i$,$r_{i}$ とし,$V_{i}=n_i - 3$ とする。
- $k$ 個の標本相関係数の $Z$ 変換値を $Z_{i}$ とする。
\[
Z_i = f(r_i) =\frac{1}{2}\ln \left( \frac{1+r_i}{1-r_i} \right)
\]
表 2.複数個の相関係数の同等性の検定と母相関係数の点推定
| $n_i$ | $r_{i}$ | $V_{i}$ | $Z_{i}$ | $V_{i}\ Z_{i}$ | $V_{i}\ Z_{i}^{2}$ |
| 10 | 0.658 | 7 | 0.78928 | 5.52495 | 4.36072 |
| 16 | 0.285 | 13 | 0.29312 | 3.81050 | 1.11692 |
| 8 | 0.569 | 5 | 0.64604 | 3.23021 | 2.08686 |
| 29 | 0.427 | 26 | 0.45622 | 11.86177 | 5.41160 |
| 36 | 0.374 | 33 | 0.39307 | 12.97116 | 5.09852 |
| 合計 | 84 | 2.57772 | 37.39860 | 18.07461 |
- 次式により,検定統計量 $\chi^2_0$ を求める($\sum V_{i}\ Z_{i}^{2}$,$\sum V_{i}\ Z_{i}$,$\sum V_{i}$ は,表 2 の合計行にある)。
\[
\chi^2_0 = \sum_{i=1}^k V_i\ Z_i^2 - \frac{\left( \displaystyle \sum_{i=1}^k V_i\ Z_i \right)^2}{\displaystyle \sum_{i=1}^k V_i}
\]
例題では,$\chi^2_0 = 1.42396$ となる。
- $\chi^2_0$ は,自由度が $k - 1$ の $\chi^2$ 分布に従う。
例題では,自由度 $4$ の $\chi^2$ 分布に従う。
- 有意確率を $P = \Pr\{\chi^2 \geqq \chi^2_0\}$ とする。
$\chi^2$ 分布表,または $\chi^2$ 分布の上側確率の計算を参照すること。
例題では,自由度 $4$ の $χ^2$ 分布において,$\Pr\{\chi^2 \geqq 9.49\}= 0.05$ であるから,$P = \Pr\{\chi^2 \geqq 1.42396\}\gt 0.05$ である(正確な有意確率:$P = 0.84002$)。
- 帰無仮説の採否を決める。
- $P \gt \alpha$ のとき,帰無仮説は棄却できない。「母相関係数が異なるとはいえない」。
- $P \leqq \alpha$ のとき,帰無仮説を棄却する。「母相関係数は異なる」。
例題では,有意水準 $5\%$ で検定を行うとすれば($\alpha = 0.05$),$P \gt \alpha$ であるから,帰無仮説は棄却できない。すなわち,「母相関係数は異なるとはいえない」。
同等性の検定で帰無仮説が棄却されなかったときには,$k$ 個の標本相関係数に基づいて $1$ 個の母相関係数を推定できる。
母相関係数の点推定は以下のように行う。
- 次式により,$k$ 個の標本相関係数の $Z$ 変換値の重み付け平均値 $Z_{m}$ を求める($\sum V_{i}\ Z_{i}$,$\sum V_{i}$ は,表 2 の合計行にある)。
\[
Z_m = \frac{\displaystyle \sum_{i=1}^k V_i\ Z_i}{\displaystyle \sum_{i=1}^k V_i}
\]
例題では,$Z_{m} = 0.44522$ である。
- フィッシャーの $Z$ 変換の逆変換(次式)により,母相関係数の点推定値 $f ^{-1} ( Z_{m} )$ を得る。
\[
r = f^{-1}(Z_m) = \frac{\exp(2\,Z_m)-1}{\exp(2\,Z_m)+1}
\]
例題では,点推定値は $f ^{-1} (0.44522) = 0.41796$ となる。
演習問題:
「2 種類の人工飼料で飼育された魚の体長と体重の相関係数を調べた。飼料 A で飼育された 45 匹での相関係数は 0.658,飼料 B で飼育された 36 匹での相関係数は 0.316 であった。相関係数に差があるといえるかどうか検定しなさい。」
問題1 帰無仮説はどれか。a,b のいずれかを解答欄に記入し,送信ボタンをクリックしなさい。
問題3 検定統計量 $\chi^2_0$ を求めなさい。答えは小数点以下 4 桁目で四捨五入した値を解答欄に記入し,送信ボタンをクリックしなさい。
問題4 求められた $\chi^2_0$ 検定統計量は,自由度いくつの $\chi^2$ 分布に従うか,答えを解答欄に記入し,送信ボタンをクリックしなさい。
問題5 有意確率は 0.05 より大きいか小さいか。a,b のいずれかを解答欄に記入し,送信ボタンをクリックしなさい。
問題6 有意水準 $5\%$ で検定を行うとき,帰無仮説は棄却できるかできないか。a,b のいずれかを解答欄に記入し,送信ボタンをクリックしなさい。
問題7 最終的な結論はどうなるか。a,b のいずれかを解答欄に記入し,送信ボタンをクリックしなさい。
応用問題:
計算プログラム [R] [Python]
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