発癌率は投与量の増加と共に,時間の経過( 加齢 )によっても増加する( 図 3 参照 )。
図 3.時間と用量の関数として表される発癌率 |
今までに述べたモデルは全て投与量( あるいは有効用量 )の関数として表されるものであった。しかし,皮膚癌などのように,動物の剖検によらないでも発癌が認知できる場合には発癌までの時間がわかるので,用量と時間の 2 変数を含む用量 - 反応関数が有効である。時間を含む用量 - 反応関数は今まで述べた全てのモデルで可能であるが,ワイブルモデルが最もよく使用されている。その理由としては,ワイブルモデルの基にあるワイブル関数が,機械などの故障発生を記述するものであるということがあげられる( 発癌という現象を,正常な細胞増殖を行うシステムの故障と考える )。時間を考慮したワイブルモデルは,( 11 )式のように表すことができる。
\[ P = 1-\exp(-\alpha\ D^m\ t^k) \tag{11} \] ( 11 )式において,$P$ を固定( 例えば $P = 0.5$ )すると,( 12 )式が得られる。
\[ D\,t^{k/m} = \sqrt[m]{\frac{\log\ 2}{\alpha}} = constant \tag{12} \] この式は,「投与量と発癌までの時間のべき乗の積が一定」という Druckrey 効果を示している。即ち,十分に低用量の投与を行えば,発癌までの時間は投与された動物の寿命を越えるようにできる。このことは発癌物質にも閾値が存在することを示すもう一つの例証を与えている。time - to - tumor モデルは,外部から触知できる癌の解析以外にも使用可能である。このモデルは,実験データの持つ情報をフルに活用できるので,今後注目すべきモデルであろう。