パソコン職場「女児出産ラッシュ」の真相 (サンデー毎日 1996年11/3号) |
1996 年 10 月 21 日の朝刊の広告欄で,こういう見出があった。「またやっとるわい」と思い,その記事を読んでみると,以下のような内容。
総合家電メーカ開発部門で,ここ 3 年間に職場の男性が授かった子供 20 人のうち,14 人が女の子であった。パソコンから出ている電磁波のせいじゃないか...で,「実に 70% が女の子」と強調(驚愕?)しているのだ。しかし,男児:女児の出生比率を面倒くさいから 0.5 として,二項分布の確率を求めると,女児の比率が 70% 以上になるような事象は 5.8% の確率で生じる。統計学的には片側検定でも帰無仮説(男女比は 1:1)は採択される( p = 0.05766)。両側検定では無論,帰無仮説採択( p = 0.11532)。
もう一つのデータとして,挙げてあるのは,
強い磁場を扱う研究をしている男性研究者の妻が出産した 140 人の子供のうち,男児は 67 人,女児は 73 人で,全国平均の「男児:女児=1.06 : 1.00」と逆転していた。こっちの方はもっと P 値が大きい!( P = Prob{女児 ≧ 73} = 0.22134) ほとんど誤差範囲!! P 値なんて計算しなくても,男児の期待出生数が 72 人で,実際は 67 人だったというだけ。誘導的な記事がなければ,常識人なら誤差範囲とみなすだろう。
著作権の関連もあるので,詳しくは書けないが,読めば読むほど笑える(嗤える)記事である。
女児数 | 確率 | 累積確率 | |
---|---|---|---|
0 | 0.00000 | 0.00000 | 1.00000 |
1 | 0.00002 | 0.00002 | 1.00000 |
2 | 0.00018 | 0.00020 | 0.99998 |
3 | 0.00109 | 0.00129 | 0.99980 |
4 | 0.00462 | 0.00591 | 0.99871 |
5 | 0.01479 | 0.02069 | 0.99409 |
6 | 0.03696 | 0.05766 | 0.97931 |
7 | 0.07393 | 0.13159 | 0.94234 |
8 | 0.12013 | 0.25172 | 0.86841 |
9 | 0.16018 | 0.41190 | 0.74828 |
10 | 0.17620 | 0.58810 | 0.58810 |
11 | 0.16018 | 0.74828 | 0.41190 |
12 | 0.12013 | 0.86841 | 0.25172 |
13 | 0.07393 | 0.94234 | 0.13159 |
14 | 0.03696 | 0.97931 | 0.05766 |
15 | 0.01479 | 0.99409 | 0.02069 |
16 | 0.00462 | 0.99871 | 0.00591 |
17 | 0.00109 | 0.99980 | 0.00129 |
18 | 0.00018 | 0.99998 | 0.00020 |
19 | 0.00002 | 1.00000 | 0.00002 |
20 | 0.00000 | 1.00000 | 0.00000 |
合計 | 1.00000 |
電磁波とがん発生の因果関係確認できず 全米科学アカデミー報告 1996 年 11 月 1 日 毎日新聞 夕刊 |
要約
高圧送電線や家庭用電気製品(ヘアドライヤー,電子レンジ,コンピュータ端末など)から出る電磁波による健康被害の有無について,全米科学アカデミーの研究評議会は 31 日「がん,生殖機能障害,発育障害など健康被害に結びつく因果関係は確認できなかった(科学的に証明する根拠は見つからなかった)」とする報告書を発表した。
全米科学アカデミーの研究評議会特別委員会の 16 人の専門家が 17 年以上にわたり,関係する 500 以上の研究論文を検討した。